婚姻によって氏が変わった人は、離婚によって婚姻前の氏に戻るのが原則です(民法767条1項)。
ただ、離婚の日から3か月以内に、届出(婚氏続称の届出)をすることによって、離婚の際に称していた氏をそのまま継続して称することができます(同条2項、戸籍法77条の2)。
このように、離婚時には、離婚の際に称していた氏を継続して称することを選択することができますが、その後、諸事情によって、婚姻前の氏に戻りたいという希望が生じることも少なくありません。
もっとも、戸籍法上、このような形で離婚後に氏を変更する場合には、家庭裁判所の許可を得なければならならいとされていて、家庭裁判所の許可を得るためには氏を変更する「やむを得ない事由」が必要とされています(戸籍法107条1項)。
「やむを得ない事由」が必要とされるのは、“氏”が、個人の識別手段として非常に重要な役割を担っているところ、安易な変更が認められると社会が混乱してしまうからです。
そのため、「やむを得ない事由」の有無を判断する際には、
①氏の変更の必要性、婚氏続称を必要とした事情の消滅などの氏の変更を求める側の観点と、
②恣意的申立てでないこと、社会的弊害がないこと等の社会的な秩序の維持の観点
の2つの観点から検討がなされることになります。
例えば、実際に、氏の変更が認められた事案では、以下のような事情が考慮されています(東京高決平成26年10月2日判タ1419号177頁)。
<氏の変更を求める側の観点>
・離婚の際に、婚氏続称を必要としたのは、当時9歳であった長男が学生であったためである
・しかしながら、長男は現在大学を卒業しており、氏の変更にも同意している
・今回氏の変更を求めるのは、両親と同居しており、今後実家を引き継いでいかなければならないからである
<社会的な秩序の維持の観点>
・離婚後15年以上婚氏を続称しているので、その氏は社会的に定着している
・ただ、両親は婚姻前の氏で桶屋を営んでいるところ、その両親と同居した上で、その桶屋の屋号で9年間近所付き合いもしている
そもそも、氏の変更とは言っても、離婚時に婚氏続称を選択した人が、その後、婚姻前の氏への変更を求める場合は、その他一般の氏の変更の場合と比べると、恣意的な申立てであったり、社会的弊害があったりする側面はないように思われます。
そのため、このような場合の氏の変更は、最近は比較的緩やかに認める傾向も見受けられるようです。
ですから、「やむを得ない事由」が必要とされているとはいえ、事情次第では、氏の変更が認められる可能性はあります。
もし、離婚時には婚氏続称を選択したけれども、その後、事情があって婚姻前の氏に変更したいと希望されることがありましたら、一度、弁護士に相談されてみるといいのではないかと思います。