夫婦は同居し、協力して助け合わなければならない義務を負っていますし(同居・協力・扶助義務。民法752条)、生活を営むために必要な費用を分担する義務(婚姻費用分担義務。民法760条)を負っています。
悪意の遺棄とは、このような夫婦間の義務に違反して、別居したり、生活費を支払わなかったりする行為のことを意味します。

悪意の遺棄はその他の離婚原因と併せて主張されることが多い上、悪意の遺棄がなされた期間によって金額が大きく変動する為、相場を出しづらいところがありますが、以下の過去における裁判例を検討すると、①悪意の遺棄が短い場合は100~300万円程度、②不貞行為等のその他の理由も認められる場合は500万円前後、③悪意の遺棄の期間が長い場合は1000万円を超える場合がある、と言うことができると思います。

  • ・婚姻期間52年(別居40年)、夫の不貞を契機に別居することになったが、夫は妻に何ら経済的給付をすることなく、不貞相手と同棲して、不貞相手との間に子をもうけた。夫は会社を経営して相当程度の生活を営んでいたが、妻は実兄の家に身を寄せて単身で生活をせざるを得なかった。当該事案では1500万円の慰謝料が認められている。(東京高判平成元年11月22日家裁月報42巻3号80頁)
  • ・婚姻期間34年(家庭内別居5年)、夫は転職を繰り返しており、暴言を吐くこともあった。長男を妻の両親の養子にしようとしたことで夫が妻に不満を抱き、夫が一方的に生活費を10万円しか渡さなくなったことで家庭内別居が開始した。当該事案では、養子縁組問題などで妻に一部責任はあるとされたものの200万円の慰謝料が認められた。(東京地判判タ962号224頁)
  • ・婚姻期間43年(別居期間32年)、夫が飲酒や外泊を繰り返すようになり、夫の会社も経営不振になったため妻は二人の子どもと親戚のもとへ転居せざるを得なくなった。他方、夫は別居を機に女性と交際して、同棲するなどし、同居義務や扶養義務を果たさなかった。当該事案では600万円もの慰謝料が認められている。(東京地判平成15年1月16日LLI/DB判例秘書登載)
  • ・婚姻期間13年(別居期間5年)、外国籍である夫の収入が安定しないこと等について口論となった際に、夫が物に当たり散らしたり、子供用の椅子を投げつけて壊したり、妻の襟元をつかんで揺さぶったり、包丁を手にとって妻に示したり、妻の頬を数回平手で叩いたりした。その後、別居が開始されたが、夫が長女を無断で母国に連れ去るという不法行為も行われた。当該事案では400万円の慰謝料が認められている。(東京地判平成15年10月10日LLI/DB判例秘書登載)