法律上、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとされていて(民法752条)、同居・協力・扶助は夫婦間の本質的な義務とされています。

ここで言う「扶助」とは、夫婦と子どもの生活を営むために互いに経済的援助を行うことを意味していて、自分の生活と同一の内容・程度の生活を相手方に保障する必要があります。

したがいまして、生活費を支払わない行為は、夫婦間の本質的な義務に違反するものであって、夫婦の関係が破綻していることを示す事実であると言うべきです。

裁判例との関係では、生活費が支払われない上に、悪質な別居や消息不明等の事情がある場合には「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)を理由に離婚することが認められているようです。

例えば、夫が妻と同居の親族等との不和を解消するための努力をせず、幼児を置いて別居し、妻に対して離婚する旨の電報を打ったまま2か月放置した事案(長野地飯山支判昭和40年11月15日判時457号53頁)や、嫉妬深くて酒癖が悪く、酒を飲んでは暴れていた夫に対して「暴力を振るうなら出て行って欲しい」と伝えたところ、自宅に戻らなくなって、生活費を入れなくなった事案(東京地判平成16年2月2日LLI/DB判例秘書登載)、夫が突然家出して消息不明となって生活費も送らないという事案(名古屋地判昭和49年10月1日判タ320号281頁)では「悪意の遺棄」を理由とした離婚が認められています。

また、「悪意の遺棄」が認められるような悪質な別居や消息不明等の事情がなかった場合にも、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)を理由に離婚が認められる場合があります。

例えば、家庭内別居をして、夫が妻や子供達との家庭生活を省みず、妻に暴力を振るい、生活費を支払わなかった事案(東京地判平成15年5月26日LLI/DB判例秘書登載)では、「悪意の遺棄」とは認められなかったものの、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるものとして離婚が認められています。