夫の不貞行為の相手がクラブのママやホステスであるという事案も少なくありません。
このような事案が少なくないことには、優良な顧客の確保のために顧客と性交渉をする“枕営業”が行われていることも影響しているように思います。

夫に対して“枕営業”を行っていたクラブのママやホステスに対して、妻による慰謝料請求が認められるか否かについては裁判例(東京地判平成26年4月14日判タ1411号312頁)が存在します。

結論からお話しすると、この裁判例ではクラブのママやホステスが“枕営業”として長期間にわたって夫と性交渉を繰り返したとしても、妻による慰謝料請求は認められないと判断されました。

そもそも慰謝料請求が認められるためには、婚姻共同生活の平和の維持という権利や法的保護に値する利益が侵害されていると認められる必要があります。
前記裁判例では、まず、売春婦が対価を得て顧客と性交渉を行った場合には、その性交渉は顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎないので、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではなく、たとえそれが長年にわたって頻回に行われても慰謝料請求は認められないと説明します。
その上で、前記裁判例では、クラブのママやホステスが顧客と性交渉をする場合も、それが“枕営業”と認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害することがないため、慰謝料請求は認められないと判断したのです。

けれども、前記裁判例の考えが正しいかどうかについては疑問があります。
なぜなら、過去の最高裁判所(最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁)の判断では、夫がホステスと性交渉をした事案で、“夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、誘惑して肉体関係に至ったかや、その関係が自然の愛情によって生じたかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法であって、慰謝料請求は認められる”とされているからです。
つまり、過去の最高裁判所の判断を前提とすると、自然の愛情ではなかったとしても慰謝料請求は認められるはずですので、クラブのママやホステスが“枕営業”した場合も妻による慰謝料請求は認められるのではないかと考えられるのです。
実務上も、肉体関係が自然の愛情であろうが、遊びであろうが、慰謝料請求は認められて、あとは慰謝料の金額の多寡の問題になるというのが通常の運用であるように思われます。

また、仮に前記裁判例の考えが正しいとしても、極めて限定的な場合にしか通用しないように思われます。
つまり、前記裁判例の事案は、期間は7年間と長かったものの、①夫は企業の社長であり、②クラブに月1、2回定期的に通って、③同業者を連れて行くこともあってクラブのママにとって優良顧客で、④主に土曜日に一緒に昼食をとった後にホテルに行って性交渉をして別れるという行動を月1、2回繰り返しており、⑤クラブに通う頻度と性交渉の頻度が一致しているという事案でした。
そして、前記裁判例自身も、性交渉の結果子どもができている事案や(過去の最高裁判例の事案がこれに当たります。)、海外旅行に出かけたり、クラブのママやホステスの自宅に通って性交渉をしている事案であれば、“枕営業”の範囲を超えているので慰謝料請求は認められると判断しているのです。
このように、仮に前記裁判例の考えが正しかったとしても、過去の最高裁判例を踏まえると、“枕営業”であるとは簡単には認められないと考えるべきです。

夫の不貞行為の相手がクラブのママやホステスだった場合、このような裁判例を踏まえて慰謝料請求をする必要があります。
もし、そのような問題に直面した場合には、当事務所にご相談いただければと思います。