権利者が住む自宅の住宅ローンについて、義務者が負担している場合には、権利者は本来負担すべき住居費用の負担を免れていることになりますので、婚姻費用の金額から、権利者が「本来負担すべき住居費用分を控除することが一般的です。

権利者が「本来負担すべき住居費用は、「収入階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出(判例タイムズ1111号294頁参照)に照らして試算されることになります。

私は現在妻と別居中です。私が自宅を出て、妻が自宅マンションに残っています。 別居後も私は、月8万円の自宅マンションの住宅ローンを支払い続けています。私の年収は800万円、妻の年収は100万円で子どもはいません。 妻から婚姻費用を請求されていますが、婚姻費用から住宅ローン8万円を差し引いてよいでしょうか。
このようなケースにおいて、婚姻費用から住宅ローン全額を差引くことは認められないことが多いと思われます。なぜなら、住宅ローンの支払いは、自宅という資産を形成しているという面もありますから、あなたが住宅ローンを支払ったことの清算は、離婚時の財産分与で解決されるべき事柄となるからです。 もっとも、婚姻費用の額を決める際、あなたが住宅ローンを支払っていることが、全く考慮されないわけでありません。 婚姻費用は、調停や審判においては、当事者双方の収入状況を前提として、東京・大阪養育費等研究会による標準算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)に基づき試算されることがほとんどです。本件では、義務者(夫)の年収が800万円、権利者(妻)の年収は100万円ですから、婚姻費用は10万円~12万円が相当となります。 この算定方式は、当事者双方が住居費をそれぞれ負担していることを前提として、婚姻費用の額を算定するものです。本件のように義務者(夫)が、権利者(妻)の居住する自宅の住宅ローンを負担している場合は、夫が自己の住居費と妻の住居費を二重に負担している状態ですから、試算結果から妻の負担すべき住居費を差引くのが一つの考え方です。 その場合、負担すべき住居費とは、収入階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出(判例タイムズ1111号294頁参照)に照らして試算されることになります。 本件では、妻の収入に対応する標準的な住居関係費3万円弱が、婚姻費用から差し引かれることになります。 したがって、あなたが負担する婚姻費用は、10万円~12万円から妻の負担すべき住居費3万円を差し引いた、7万円~9万円となります。